DUNE libartane

SARAH MOON

D'un jour à l'autre

東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで個展を開いているサラ・ムーン。幻想的な、目をこすれば消えてしまう夢のようにも見える写真で知られる。インタビューに応じてくれた彼女はファッション業界からキャリアをスタートさせただけあってとてもエレガントでフェミニン。でも話していくと感覚的なものばかりでなく理知的、論理的な部分も垣間見える、入り組んだ迷宮のような内面の持ち主だ。個展にあわせて来日したサラ・ムーンに聞いた。

撮影された瞬間はそのとたんに過ぎていって、二度と戻ることはない。展覧会のタイトル『巡りゆく日々』にはそんな想いが込められていると聞きました。サラさんがこのことを意識するようになったのはいつですか?

SARAH MOON(以下、S):一期一会という日本語がありますね。実は昨日、覚えたところなのですが(笑)、写真の本質を実に適確に現している言葉だと思います。写真を始めた当初は意識していませんでしたが、撮影を続けるうちにそのことがわかってきました。たとえばスタジオでファッション・フォトを撮っているときに、100カット撮影したとしてもワンカットずつ、すべてが異なっていて同じ感情は二度と戻ってきません。演出写真でも同じことです。 毎日、同じ木の前を通っていて、あるとき「これだ」と気づく。あるべきものが、あるべき時に存在していると感じる。そのことを鋭敏に感じ取ることができたとき、“一期一会”の概念が理解できると思います。

モノクロームとカラー、どちらにするのか決定する基準は何ですか。

S:モノクロにするかカラーにするかは主題によります。カラーとモノクロではそれぞれコミュニケーションの言語が違うのです。カラー写真はモノクロ写真に比べるとより饒舌ですが、モノクロ写真はもう少し内向的だと思います。いずれにしても写真は記憶に関するものであって、現実とは距離がある。写真に撮ることによって見たものそのままではなく、ある種の変換作業が行われるのです。ただファッションではカラーで撮ることが多いですね。〆切りもあるし、職人のように一定の役割を果たすことを求められる。個人的な作品ではそういった制約はありませんから、好きなことを追求できます。

大判のシリーズでは博物館の剥製を撮ったものもありますね。

S:剥製と写真は似ています。どちらも生のある瞬間を切り取ったものですが、でもそれが生き返ることはありません。生きている動物を撮ることもあります。私の作品で檻の中の猿を撮ったものがありますが、それは監獄の中の人間だと解釈することもできます。動物はすべて、人間のメタファーまたはシンボルなのです。

展覧会には『SWANSONG』という映像作品も出品されていますが、これはどこで撮られたのですか。

S:昨年秋、川崎の臨海工業地帯で撮ったものです。きっちりとデザインされていて、極めて効率的に運営されているところが日本的だと感じて興味を持ちました。ここ2年間ぐらい、タイムレスなところに惹かれてこういったインダストリアルなものを撮っています。モダンであると同時に、未来的でもある。建物はずっとそこに存在し続けるけれど、働く人は入れ替わり、鳥は飛び去っていきます。『SWANSONG』というタイトルには“労働の終わり”といったニュアンスを込めました。最近、ロボットなどの登場で工場労働者の仕事がなくなるのでは、といったことが言われていますよね。実際にはどんな変化が起こるのかわかりませんが。

今回は出品されていませんが、以前、『赤ずきん』をモチーフにした映像作品を作られています。男性が登場する、謎めいたフィルムでした。

S:赤ずきんを始めとする童話にはさまざまな解釈があります。精神分析学者のブルーノ・ベッテルハイムは若い女性が恐怖と欲望の対象である男性と出会う話だと言っています。少女が成長して祖母や母を越えていく話だと考える人もいる。『赤ずきん』はヨーロッパ各地に口伝で伝えられた民話なので、ストーリーにも複数のバリエーションがあります。私の作品も多様な解釈のうちの一つなのです。

女性の欲望というお話が出ましたが、それについてどう思われますか?

S:私のテーマは“誘惑”です。私は表舞台よりも、裏舞台で起きていることに興味がある。私が女性を撮影するときはモデルとの暗黙の了解があります。いわば共犯関係にあるのです。

写真家を目指す若い人に何かアドバイスはありますか。

S:キャリアにとってはチャンスが大切ということです。適切なペースで、適切な瞬間にそれをつかまなくてはならない。でもそのチャンスがいつ訪れるかはわかりません。だからいつもそれに備えていなくてはならないのです。また問題なのはプロセスや道具ではありません。以前ワークショップをしていたときは、参加者にはどんなものでもいいから自分の好きなカメラを持ってきてください、と言っていました。どんな機材を使うかではなく、あなたがどう感じるか、何を探し求めるかが重要なのです。

TEXT AND INTERVIEW BY NAOKO AONO
文・インタビュー 青野尚子
All Images © Sarah Moon