DUNE libartane

TERENCE KOH INTERVIEW

チャイナタウンから未知への冒険の入り口

芸術家テレンス・コーについてまじめに書きすぎている記事は、とてもばかげているように感じる。ポスト・ミニマリズム、ポスト・コンセプチュアリズム、ポスト・パフォーマンス、デッド・アート理論家などについて彼にインタビューすると、テレンスが周りを踊っているかのように感じ、とても愉快で楽しい気分になってしまう。時には会話の終わりにインタビュアーが打ちのめされてしまうこともあるように、彼が知的な課題に取り組めないと言うわけではなく、ただもっと単純にライターは楽しさのあまり話のポイントを失ってしまうのだ。テレンスは夢であり、創造であり、芸術作品である。テレンスを知るにあたって全く役に立たない事実としては、彼は7 0年代~8 0年代のいつごろかの“アジアのどこか”生まれ。中国? 韓国? 彼は多くのアメリカ人がアジア人の国籍の違いを見分けられないところを狡猾に利用しているのだ。建築家ザハ・ハディッドのもとで働いていたことがあり、独学で多くを学んできた。2003年ごろにロサンジェルスのプレス・ プロジェクトで活躍し始め、2009年までには全世界的に広がりをみせ、その変幻自在な芸術経歴はレオン(スペイン)のMUSAC、フランクフルトのシャーン・クンスターラ、ニューヨークのホイットニー美術館などの主要な美術館でのショーも含まれている。テレンスはペテン師であり、掴もうとしてもすべって掴めない魚であり、あそび好きなウサギである。ニューヨークのチャイナタウン、キャナルストリートの真っ白いビルで、毛皮とフェンディにくるまり、よく嘘をつくが、それが時に本当のことになったりもする、いかさま師なのだ。気取って話し、観察し、彼は、あなたの聞きたいことを話し出したりする。中国語が好きなら中国語を話す? このウサギは実に遊び好きで、走ったり、匂いをかいだり、おしりを見せたり、あっちに行ったり、うんちしたり、どこかに消えてしまったり。質問がつまらない時には、話を作りはじめる。言葉にうんざりした時には、彼自身の架空の言葉を作り上げたりもする。きれいに着飾ったつもりでもひどくダサくなった時には、エキゾチックでひどくけばけばしい物を持ちれないほど買い続ける。テレンスの人生とその作品は、日常的なものや、誰もが信じている【現実】を破壊する。インスタレーションとパフォーマンスのなかで、発見という詩的な世界:セックス、死、存在と虚無といった彼自身の世界を作り上げるのである。彼のインスタレーションの多くはモノクロで、風変わりな素材と隠されたジョークで彩られている。ニューヨークとルクセンブルグ、チューリッヒで行われたごく最近のエキシビションは “12 found human skeletons”。でも、それだけではなく、コニャック、日本酒、アブサン、エルメスのコロンに“アーティストのささやき”といったものもまた構成要素であった。 “found”skeletons! これはテレンスの独特のジョークのひとつである。また別の作品は“2匹の生きたアルビノのインコ”や“隠されたブロンズ像”。鳥のえさ、星 くず、燃やされた詩、セックスローションや説得力のある“真夜中過ぎの船からのロープ”、最も控えめに展示されていた作品には、精子で黒いベッドシーツに『秘密のマテリアルはシーツの上に』と書かれていた。 同時期の、彼のポルノティックな作品には『アーティスト本人とそのほかの人の精子』とリスト書きが婉曲的に書かれていた。しかし、錬金術的に金色のスプレーペイントでさえ14カラットの輝きに変えてしまう彼のビジョンが持つ変幻自在さゆえに、彼の作品の物質的な構成要素だけを気にしていると、テレンスの本質を失ってしまうことになる。インスタレーションに訪れるということは、 そこで行われたパフォーマンスを見たか見ないかにかかわらず、生きている劇場に行くようなものである。選ばれた色だけが支配するモノクロームの完全性が、フォームとテクスチャの違いを強調する舞台のようなものだ。白い粉砂糖に埋もれたブロンズ像、白い大理石の上の白いサテンの布、デイライトの蛍光塗料、ホワイトチョコレート、クリーンな香り、骨、そしてホワイトアスパラガス:これらが彼が採用した白い物。植物や動物などの自然な物が繰り返し使われ、その中にポップなイメージや個人的なイメージが時折飛び出してくる。考え抜いて台本が書かれた彼の空間に入り込むという経験はとても個人的な結果を生む性質ゆえ、説明するのは簡単なことではないが、コーのウェブサイト、asianpunkboy.comをじっくり読むことで、少しは彼のビジュアル・ポエムを吸収する心構えをつくる助けにはなるかもしれない。テレンスの経歴はアングラウェブサイトでの可愛くてわいせつなゲイ、アジアンパンクボーイとして始まった。ブログを書く代わりに、音楽や詩、ポルノ、言葉などの要素をランダムにアップすることにより、繊細なバランスを保っている。
2003年まではアジアンパンクボーイとしてのみ知られていた彼だが、コーは自身のキャラクターや、Chang CholやXu Han Weiのようなドッペルゲンガー(変名、別人格)を使い、チャイナタウンの彼のギャラリー、アジアン・ ソング・ソサエティのイベントでふざけ続けた。もし韓国の芸術家が『最終的な西への拒絶』を示すために、ケツの穴にたっぷり詰め込んだピーナッツを、アメリカから韓国へ、そしてアメリカへ持ち帰ったという記事を読んだら、あなたはその作品であるピーナッツにお金を払えるだろうか? テレンスはふらふらしているように見えて、でも決して1人ではパーティに現れず、パーフェクトな瞬間が来るまでは人前に現れない。エスコートしてもらい、誰かが彼に飲み物やドラッグを手渡してやらなければならず、カメラのフラッシュが光り始めるまではあなたの陰に隠れていて、それからやっと行動を起こす。パパラッチに囲まれたら、リムジンに戻ろう、とあなたの腕にもたれかかり、疲れ切って怖がっている体を装う、たぶん。アジアン・ソング・ソサエティ(おもしろいことに略称はASS)での彼の最初のショーはアングラのゲイクラブ“The Cock”の有名な舞台裏(秘密部屋)の再現だった。ギャラリーの中は何も見えない完全な真暗闇で、蒸し暑くて人がいっぱいで、汚いベンチが2つあるだけ。人混みに紛れると、そこには多数の白いリーボックを履いただけの全裸のゴーゴーボーイたち、そして残りの半分は勃起した人たち。観客はフェロモンと汗、勃起したペニスと恐怖によって完全に性的に興奮した状態に陥れられた。人々は入り口も出口も見つけられないかのように、ただ少しでも自分の前にある物を見ようと携帯を開いていたが、何人かの人は期待以上のものを得る物が出来たようだ。“望む人には望むモノを”と言うことだろうか。

KATHY GRAYSON:かのインタビュアーが尋ねたことの反対を尋ねてみたいのですが、あなたはウォーホールと何が違うと思いますか?

TERENCE KOH(以下、T):僕はウォーホールのように犬を飼ってない。ウォーホールのように神を信じてもないし、ウォーホールのようなよくわからないカリスマ性もないし、他人に対してもウォーホールのように失礼じゃない。ウォーホールみたいにネクタイも締めないし、ウォーホールみたいに一生懸命に働く訳でもないし、ウォーホールみたいにオリジナルでもない。

いつも尋ねられる質問はなんですか?

T:生年月日と生まれた場所。怖くなるからその質問には答えたくないし、真実を知りたくもない。誰がどこで生まれたかなんて、誰も知るべきじゃないんだ。そうしたら、世界はもっと平和になると思うよ。そして、人々はもっと幸せになれる。

尋ねられたい質問は?

T:アーティストでいることを好きかどうか。

なぜどうでもいい詳細をミステリアスにしておくことが大切なの?

T:それにはどう答えたらよいのか分からないね。どうでもいい詳細は別にミステリアスでもなんでもないよ。全く。たとえば、朝起きて一番にカップ一杯の暖かい水を飲むのが好きなんだ。だから水をきっかり1分あたためる。水を電子レンジに入れている間に腹筋を33回する。そしてそれが済んだら、水もあたたまっていて、僕はそれを飲む。これが毎朝の日課。ミステリアスなところなんてどこにもないじゃないか? なんにも。

これは私の個人的な好奇心からの質問ですが、好きなアーティストは?またその理由は?

T:僕はいつでもダッシュ・スノウのところに行くのが好きだった。僕らはいつでも楽しいコドモのままで、彼といるとコドモの頃に戻ったような気がしたんだ。それで、僕らの周りにイノセントに見えるモノをよく作ったんだ。そうしたら全てを楽しみのために開放しておけるから。

どのようにしてボーイフレンドのガリックと知り合ったのですか?また長い間一緒にいるのはなぜですか?

T:僕らはThe Cockで出会った。あの有名な秘密の部屋、セックスの社交場でね。僕らはお互いにとても惹かれあって、今度の6月でもう10年になる。こんなに長い間一緒にいられるのは、あー、よく分からない、みんな僕たちと同じくらい長いことつきあえるんじゃないのかな?分からない、知りたくもないな。

美術商のザヴィエル・ペレスと少し変わった関係を持っているようですが、何がどのように特別なのですか?

T:僕らは一緒にテレビのワイドショーを見たりするような少し変わった関係をもっているんだ。僕らはあまり芸術についての話などをしたりしない。彼が僕の部屋に来たり僕が行ったりすると、僕らは一緒にテレビを見る。ルー・ポール・ショーを見たり、昨日は“サバイバー”や“プロジェクト・ランウェイ”の再放 送を一緒に見たり。彼は僕にとって美術商というよりもっとステキなガールフレンドといった感じかな。

あなたの家がただギャラリーであるだけでなく、ダウンタウンに住むクリエイティブな人たちの集まりの場となっていることについてどう感じていますか?

T:ハッピーになる。でも近頃はそんなに人には会わない。僕はどんどん世捨て人のようになって、部屋にこもって一日中、ネコに話しかけたり、本を読んだりしているよ。でも、公共に開放されているギャラリーが下にあるということはとても素晴らしいことだと思う。どんな人でもあつまれるというこの公共の場:ギャラリーを持っているということをとても誇りに思っているし、それがここでアートを開放している理由なんだ。僕らはもっとこういった場が必要だと思う。人々がやってきて、集まって、一緒に話をして、ということが、歴史を変えていくということだと思う。

あなた自身の部分(顔、躰など)を使ってできた最初の作品はどれですか?

T:本当に分からない。わるいね、最近はダメなんだ。

私はあなたから来たメッセージがとてもおもしろいので保存しています。“Oh you tang my pang pang”が私のお気に入りです。あれはふつうの言葉には飽き飽きしてしまったことから生み出されたでしょうか? なぜいつも同音異義語(言葉遊び)をメールやブログなどで使うのですか? あなたの言葉のひとつひとつはなぜそんなにナンセンスなのでしょうか?

T:生まれつきだね。ほとんどのものが自然に出てくるんだ。ただそれらを何となく身につけられれば、幸せな生活への鍵になると思うよ。

いちばん好きな食べ物は?

T:カブとキュウリを巻いたマレーシアの食べ物(マレーシアロール: Poh-poah)だね。ほとんど毎日食べてるよ。すごくアジア的な料理。アジアの食べ物がとても好きで、アジア的じゃないものはあまり好きじゃないんだ。でも、まぁ、ちょっと悪いときなんかはマクドナルドとかチーズとかも食べるけどね。でもクラフトのはダメ、アニーのならいいけど。あのロゴにウサギのついてるやつ、知ってる?それとか、ウサギの形のやつとかが好きなんだ。もっと、食べ物について話しても良いかな? 僕は出来る限りガリガリでいたいと思って、だから炭水化物を食べたらダメなのは分かっているけど好き、冷たいラビオリにマリナラソースをただぶっかけて食べるのがすごく好きなんだ。そいつにシーソルトと胡椒、チリフレークをふりかける。僕は辛いのが好きだからチリフレークをなんにでもかける。チリやハラペーニョも好き。あとはハラペーニョをオリーブオイルの中でかりかりになるまで炒めて、それをスクランブルエッグと一緒に食べるのも、ゆで卵に醤油とチリフレークをかけて食べるのも好き。日本食も好みだね。ウナギみたいなあれ(映画館で売ってるスナック)がすごく好きで、箱で買ってもいいと思う。映画館であれを食べながら見るのが好きなんだけど、時々他の人は変だと思うみたい。あとは、大きくてジューシーな茹でたホワイトアスパラガスが好きだし、あと小さな豆も好き。それを電子レンジでちょっと温めてチリフレークをかけて食べるんだ。

ニューヨークでよくぶらぶらする場所はどこですか?

T:家。よく分からないけど、外に出るのが怖くなってきてるみたいなんだ。スタジオやオフィスにも行かなくなってしまったし。何かがおかしくなっていて、最近は全てのものが怖いんだ。新しいソファも買ったし、その上で白い毛布にくるまっているのが好きなんだ。毛布の中に隠れているのが好きなんだよ。

社会的な場において、話すより聞くことの方が多いように見えますが、聞くことから多くのアイデアを得るのでしょうか?

T:僕は人を恐れているから、なんていえばいいのか分からないよ。僕は話すのが上手くないと思うし、できればスポンジみたいになれたらいいと思う。吸収したいんだ。もし、生まれ変われるなら、僕は暖かいカリブ海の陽の良く当たる場所で、周りを泳ぎ回るきれいな魚をずっと眺めている、真っ白いきれいな珊瑚になりたいんだ。きっと素晴らしい生活だよ。

突然“男性モデル”になってしまった感想を聞かせてください。

T:もう5年以上もモデルをしているよ。なんども雑誌や特集の撮影をしてきた。でも、モデルである事が最高とは思わない。とても悲しい考えだけど、毎日モデルでいたとしたら、それ以外の時間は美しくない自分になる、ということだろう? でも、そう、僕はアーティストだから。死ぬまでベッドの上でもアートをしている方が心地いいんだと思う。

アートより高みにあると思うものはありますか? また、アートを最も高尚な物だと捉える人達は嫌いですか?

T:僕はアートにそれ以上のものを感じない。 今、僕はダライ・ラマにとても影響を受けていて、彼はアートについてなんてあんまり詳しくないと思うんだけど、人々をとても幸せにするんだ。人々に丁寧に、そして全身全霊で人に愛される方法を学んだんだよ。アートなんてとてもストレスフルなものだから、僕 はダライ・ラマや修道士、修道女のようになりたいんだ。本当に何度も何度もブツブツ言ってるけど、ほとんどのアーティストは常に頭痛を抱えているものなんだよ。

どのような方法を使ってアイデアを発展させるのですか? モデル?コンピューター ? それともスケッチ?

T:アイデアは出るときになったらただやってくる。普段は飛行機に乗ってシャンパンとヴィコデン(頭痛薬)を一緒に飲んで、くだらないハリウッド映画を見ているときとかでもね。

展覧会が決まっているのになんにもアイデアがないときにはどうしますか?

T:ウサギを描く。ただただ、ウサギ、ウサギ、 ウサギ。ウサギの絵ならいくらでもあるんだ。

どのような時代の文学に影響されていますか?どのようなジャンル?また敬愛する作家はいますか?

T:プルースト。あと、スタートレックの小説も好き。でも、もっと好きなのは伝記を読むこと。今、ベートーベンの伝記を読んでいるんだ。

ブログを始めたきっかけはなんですか? 最近はブログに対してどんな風に感じていますか?

T:アジアンパンクボーイはブログと考えてはいない。だって、明確な一貫性なんてなにもないだろ? 今は生活に満足できるようにするのと同じように、ブログにも満足できるようにがんばってるよ。

チャイナタウンに住んでいていいことは?

T:僕は中国人だから、人々の中に簡単に紛れ込めるのがいい。でも、僕には中国人の友達が欲しいと思っているのに1人もいないし、それに彼らは僕のことが好きじゃないと思う。ただ中国人のたくさんのティーンの友達と中華料理を食べに行ったり、映画を見に行ったり、ハンドボールをしたりしたいんだ。ただ、 普通のことをしたいんだ。

あなたが飼っている2匹のネコ、ハンス・ メイヤーとギルバートの性格の違いはなんですか?

T:ハンス・メイヤーはブルーベリーを食べるのが好きだけど、ギルバートは全然興味がない。ギルバートはツナを食べるのが好きだけど、ハンス・メイヤーは全然興味を示さない。

恋人のガリックをまた作品に登場させる予定はありますか? この本の中に彼のペニスが写っていたと思うのですが。

T:彼は時々作品に現れるんだ。彼は僕よりもっとずっと無邪気でユーモアにあふれているから、作品の中に現れていない時でも僕にとっては女神のような存在。彼はとてもウィットに富んだ人なんだ。

あなたが訪れた都市の中で一番イケてる男の子がいた都市は? そしてアーティストが一番良かった所とスピリットが一番良かった所もおしえて?

T:世界中で一番イケてる男の子はロンドン、 アーティストはスペイン、スピリットが良かったのはスコットランドだね。

白、黒、ゴールド、赤。何か足りない?

T:いや、それで充分。あなたはもう、テレンス・コーの達人。

単色のインスタレーションを行う魅力はなんですか?

T:ただシンプルに表現したいだけ。

あなたの作品が注目される前にニューヨークでしていたことは?

T:クラブに行きまくってた。スシって名前のクラブによく行ってたんだけど、一日中着ていく洋服のことを考えて、夜になったら出かけていくんだ。今ではニューヨークでどこに行ったら良いのかも分からなくなっちゃったし、だから家にこもってネコと遊んだり、スープを作ったり。大人になったんだと思う。

TEXT AND INTERVIEWED BY KATHY GRAYSON
PORTRAITED BY KAZUMI ASAMURA HAYASHI
文・インタビュー キャシー・グレイソン
ポートレイト 林香寿美