DUNE libartane

KIM JONES INTERVIEW

Where the place got so much soul

アンコール・トム、アンコール・ワット、キリング・フィールド、共産主義、クメール・ルージュ、シルク、植民地、少女売春、ファスト・ファッションの犠牲者、ホリデイ・イン・カンボジア、ポル・ポト、メコン川。ごくごく普通に日々を過ごす日本人に、カンボジアについて何を知っている、と尋ねれば返ってくるであろう数少ないキーワードの五十音順にならべてみた。インテリ諸氏であれば、これ以上のワードを挙げられるのであろうが、まあ、一般的にはこんなものだ。これらのキーワードをまとめると、「過去に栄華を誇った東南アジアの一国が西欧列強、共産主義、ポル・ポトに蹂躙され、その傷を癒す間もなく最近は資本主義に圧搾されている」といったところだろう。アンコール遺跡群が世界遺産として脚光を浴びるほど、ポル・ポト率いるクメール・ルージュによる殺戮統治の影は濃くなり、カンボジアが背負う明暗のコントラストが強まった。

 

アジアのなかでも最貧国として知られ、人権団体は熱い視線を送り、セルフ・ブランディングに余念のない未来のエリート候補たちは就職面接の小ネタづくりにボランティアに精をだし、勘違いをしたバックパッカーたちは遺跡観光で石に躓いた程度の冒険譚を生死の境を彷徨ったかのように自慢気に語る。そんな厚徳の志にカンボジアについて話を訊けば、ファスト・ファッション・ブランドの猛威、少女売春などを例に、同国の現状を涙混じりに説明してくれるだろう。世直し青年隊による、カンボジア講座の始まりだ。ひとしきり現状を訴えると、話題は内戦に遡る。あやふやな知識で内戦の凄惨さを説明し終えると、カンボジア講座は早くも山場を迎えてしまう。まずはお約束、『キリング・フィールド(KillingField)』の一観を強い、クメール・ルージュについて熱弁する。口八丁手八丁で共産主義の愚かさ、民主カンプチアの蛮政を強調すればするほど、自らの徳とインテリジェンスが高まる、と勘違いしているようだ。山場には、さらに頂があった。蛮政が猛威を振るうなかで起きた知識人虐殺だ。この頂こそ、世直し青年協力隊にとっての現代カンボジアのルーツなのだ。カンボジアから知識人が一掃されたせいで、同国は発展の機会を失し、2015年の名目GDPも世界110位に甘んじているらしい。

 

風が吹けば桶屋が儲かるように、国から知識人がいなくなれば貧国にならざるを得ない、だから恵まれた私たち日本人は何かアクションを起こさなくてはならない、と青年隊のカンボジア講座は続く。ここまで我慢すれば、講座の残りは頂の壮絶さを際立たせる添え物でしかない。ありきたりの左翼的植民地政策批判を繰り広げ、フェアトレードの利点を力説し、クメール朝が存続していれば今のカンボジアはもっとちがったはずだ、アンコール遺跡群を生んだ智慧は宇宙レベルだ、といった所感で講座を締めくくる。世直し青年隊の講座にもバリエーションがあるので、全てがこう、と断ずるのは暴力的だが、これが最もポピュラーな講座例だ。過去の栄華と現在の悲惨。今のカンボジアには本当にそれしかないのか、と青年隊に問えば、あんな素敵な笑顔は日本で見たことがない、とカンボジア人の笑顔を自慢する。

 

残念ながらそんな講座からは、カンボジアの「今」はわからない。20世紀、ジャーナリズムよりなによりも、DeadKennedysの「HolidayinCambodia」が東南アジアの小貧国への扉を開いてくれた。始まって間もない今世紀、ジェロ・ビアフラの役割は誰が担うのか。探していたわけではないが、思わぬところで扉が開かれた。LOUISVUITTONでの2016SSMENSCOLLECTION、メンズ・コレクション&アーティスティック・ディレクターのキム・ジョーンズがカンボジアをはじめ東南アジアにスポットを当てたのだ。彼は「今」のカンボジアにインスパイアされ、歴史を語らずに創造性を発揮した。敢えて歴史を語らずとも、「今」のなかに伝統は息衝いている。そんな当たり前の事実をコレクションで提示したキム・ジョーンズは、カンボジアに何を見出したのだろう。

 

2016SSのコレクションには世界中を旅してきたあなた自身の経験が色濃く反映されているようですが、今回はどのような経緯で東南アジアの文化を取り入れようと思ったのですか?

Kim Jones(以降、K):アジアには様々な国にそれぞれ固有の文化があるので、ひとまとめにアジアといってしまうのは憚られますが…世界中を見て周っていた2014年の夏、休暇でミャンマーに行ったときに見た、丘の上に住む部族の素晴らしい伝統衣装が目に焼き付いていたんです。構想段階でそれが思い浮かび、タイ、ラオス、カンボジア、そして日本をリサーチで訪れることに決めました。(写真を見ながら)例えばこのストライプはその部族のもので、独特なビーズがあしらわれています。美しい仕上がりのために、技術的にとても難しい刺繍が施されているんです。残念ながら、そのビーズが品質管理の基準を満たしていなかったので、結局形にはなりませんでしたが。スーベニアジャケットは今シーズン、多くのブランドが手掛けていますね。私はモチーフのひとつに日本からインスパイアされた、幸運を象徴する鶴を選びました。今回は他のアイテムにもモチーフとしてプリントや刺繍で施されています。今回はいくつかのストーリーを設けていて、それぞれに異なる動物が登場してきます。例えば、中国の猿です。このモチーフは、刺繍でなければ表現しきれなかったでしょう。他にも亜熱帯雨林に潜んでいそうなブラックパンサーや、インドネシアの空を自由に飛び回る鳥たちの楽園も盛り込みました。素材として特徴的なものには、国産のレザーがあります。このレザーは、エイのように硬い質感と触感があるんです。カモフラージュはミリタリーのイメージから離れたかったので、勢いのある筆のタッチで表現しました。

どこでこのレザーをみつけたのですか?

K:もちろん日本です。その他にも今回用いた生地の多くは日本製です。京都の近くにいる職人たちがつくったものもあって、彼らがインディゴ染めを多用していたのが印象的です。生地に光沢感を出したかったので、高級なシルクなどを使って煌めきを強調しました。

テーマを〝異文化の共通点〞としていますが、どんな共通点をみつけたのですか?

K:アジアからヨーロッパに至るまで、様々な部族の伝統衣装を見てきました。実際に自分の目でいろいろ見ていく中で、多くの類似点を見つけることができました。ひとついえることは、500年前も、インターネットが発達した現代も、人は似たような格好をしているということです。それは、世界のどこにいても変わらない共通点なんだと感じました。

カンボジアは絹絣などが有名ですね。

K:ええ、カンボジアではシルクの製造工場を見に行きました。一つのことを追求している人たちとは、常に仕事をしていきたいと思っています。それはきっと、彼らのためにもなるはずだと信じています。カンボジアはドラマチックで美しい場所です。歴史を振り返れば、カンボジアの王朝がアジアの広範囲を支配していた時代もあります。この土地では今でも、そのときの名残を肌で感じることが出来ます。うまく説明できないけれど、とてもパワフルなそのエネルギーは、自分のプロセスの中で必要なものでした。自分の服のほとんどはカンボジアで作られていることも、私の中では大きな要素です。カンボジアは世界でも有数のシルクの生産地で、今でも多くの場所で、手作業で最高品質なものを作っています。今回は複雑な刺繍など、技術的にとても難しい指示に答えてくれる工場を探しました。

カンボジアのどこに惹かれたのか、詳しく教えていただけますか?

K:ひとことでいえば、雰囲気ですね。人々もクールだし、滞在したホテルも素晴らしかったです。昔の王様が住んでいた伝統を感じさせる宮殿でした。人を招待するのには最高の場所だと思います。

インスピレーションを受けた具体的な場所があればお聞きしたいです。

K:雰囲気や感じることの全てからインスピレーションを受けるので、特定の場所はないけれど、いろいろな村に行って市場や街を歩いたり、アンコールワットで様々なものを取り憑かれたように見たり。前回訪れたときは2日間しかなかったのですが、今回はもっと長く滞在できるので様々な場所に行ってみようと思っています。

カンボジアを語る上で、近代史における悲痛な出来事は避けられません。

K:そういうことが起きている場所を訪れたことがないので、機会を設けて足を運びたいと思っています。毎日世界のどこかで、悲惨なことが起き続けています。ルワンダもその例のひとつです。政府が状況をありのままに伝え、二度と同じことが起きないよう公平に対応をしているのは素晴らしいと思います。

ルイ・ヴィトンはトラベルをブランドの起源としていますが、あなたにとって旅とはどういうものですか?

K:様々な文化を体験するのが好きで、出来る限り色々な街や国を訪れたいと思っています。東南アジアはいままで訪れたことがなかったので、かけがえのない体験となりました。どの国にも酷い状況に陥った時代はあるけれど、それを乗り越える人間の強さに心を動かされます。現地の人と話すことは、実際に何が起きていて、彼らがどう思っているのか知ることができるので大切だと感じます。

あなたにとって観光と旅の違いは何ですか?

K:観光とは、例えば単にアンコールワットを訪れることで、それ以上に探求しないことだと思います。私は、見られるものを全て見てみたい。ロードトリップが大好きなんです。遠くの田舎の方まで走り、止まりたいと思ったところで止まる。ルイ・ヴィトンが根幹に据えているのはジャーニー、常に変化をしていくことです。目的地を見つけ、どうやって楽しく、気持ち良く、美しくそこを目指すか。そういったプランを皆様に提案できるのが、ルイ・ヴィトンとして一番筋が通っていると思います。旅とはただ見るだけではなく、その表面下まで見て感じることだと思います。

あなたの次の旅のご予定は?

K:次はタイに行く予定です。そのあとパリ、ロンドン、マイアミ。そしてパリに戻ってから、南アフリカに行く予定です。南アフリカはバケーションですけどね。

ほとんど自宅にいないのですね。

K:最近はほとんどいませんね。旅先で写真やスケッチを送り、プロジェクトを進めています。それはチームのお陰です。私が傍にいなくても、物事がスムーズに進むのですから。

以前のインタビューでも、チームが素晴らしいと言っていましたね。

K:本当に素晴らしいチームなんです。ファッションだけに囚われることのない、モノづくりが心底好きな人たちです。もちろんファッションは大好きですが、それが全てではないのです。

TEXT BY KENTARO KAWAGUCHI
INTERVIEW BY KAZUMI ASAMURA HAYASHI
TRANSLATED BY TOMOKO OKAMOTO

All Images From LOUIS VUITTON 2016/SS