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FRANK BENSON INTERVIEW

フランク・ベンソンの3D世界が創り出す異様な現実

フランク・ベンソンは、デジタルアートにおける先駆者の一人である。彼は3Dモデリングの技術を使って、作品となる前に思考や構造を表現してしまう。形式主義者としての側面を持つベンソンは、人体をモチーフとして使うことでも知られている。リアリズムと美的感覚を追求して体毛を一本ずつ肌に植え込むなど、緻密なレンダリングを行うことで人間そのもの、またはアバターを作り出す。ベンソンは、精密に人間を作り出そうとしているのだ。その精巧さから、2005年のアートバーゼルマイアミに出展した彼の作品『Human Statue』には、銅像のようなボディペイントをしたストリート・パフォーマーと間違えてチップを置いていく人もいた。彼の作品はコンピューターのレンダリングから生まれたものであり、本人に言わせれば、事実上どこででも生産出来る最初の完成されたプロダクトとのこと。そんな彼はブルックリンの工業地帯であり、アーティストが集まるブッシュウィックで活動している。

 

程よい大きさのスタジオに制作途中の作品はなく、棚には以前のプロトタイプやサンプルが並び、あまり使われていない電動工具が置かれていて、ほとんどの作業がコンピューターで行われていることが分かる。ベンソンはバージニア州のノーフォーク出身。2001年にUCLAで博士課程を取得するため、カリフォルニアへと移った。そこで幸運にもチャールズ・レイ、ポール・マッカーシー、マイク・ケリーというアメリカを代表する現代美術家3名から教授を賜った。ベンソンは写真学科から始め、次第に彫刻へと移っていった。自分に必要な教えとチャンスを与えてくれる大学を的確に選んだといえる。

 

ダミアン・ハーストが購入したことでも知られる、プラスチックを成形して作られたベンソンの初期作品『Chocolate Fountain』から押し出し粘土シリーズに至るまで、彼の作品はトロンプ・ルイユがテーマとなっていて、見る人がもつ期待や思惑を使い視覚的に欺く。

 

2011年には、次のシリーズとなる『Human statue 』を完成させた。『 Human statue (Jessie) 』はベルサーチのサングラスをかけ、オーバーサイズのTシャツドレスを着た女性の彫刻である。これは前作と違い3-Dスキャナーによって作られ、ニューヨーク州北部の工場とカッラーラ(イタリア)の大理石採石場で制作された。

 

最高の素材と多くの時間を費やし完成したこの無表情な人物像は、80年代のコカコーラのCMから出てきたようでもあり、ドレスのドレープやアトラスのようなポーズは古代神話の時代を思い浮かばせる。銅で作られた肌にある全ての毛穴は皮膚呼吸をしているようで、自然にボディにまとわりつくTシャツはオイル・スティックの粉が黒い大理石の上を流れ落ちているようだ。この『Jessie』はその精巧な出来栄えからもわかる通り、完成までに2年を要した。

 

去年開催されたニューミュージアムのトリエンナーレであるSurround Audienceに出展したベンソンの作品『Juliana』は、インスタグラム上で最も取り上げられた作品となった。これは彼の友達で近所に住んでいるトランスジェンダーのアーティスト、ジュリアナ・ハクスタブルをモデルに、ルーブルの『Sleeping Hermaphroditus』からインスパイアされた作品である。『Juliana』は目の高さほどの台座に横たわり、胸とペニスを露わにしながらこちらを見つめている。鼻ピアスと紫のリップ、爪はアクアブルー、髪は半分そり半分は三つ編みされ、蛇のようにその身体にたれている。その髪は彼女の指が伸びた左腕と絡み合い平静さを表していて、まさにそれは堕落したオダリスクのようである。神話の女神とスティーグ・ラーソン作品のヒロイン、制度化された古典主義とブッシュウィックの現実、この作品の複雑さは数々の歴史や文化が混ざり合いできあがっている。『Juliana』と『Sleeping Hermaphroditus』は両方ともに卓越していて、見る者を驚かせてくれる。けれど『Juliana』には『Sleeping Hermaphroditus』が持つ受身的要素はなく、注意深く冷静で、何かを悟っているようで、観客は困惑する。そのパワーは村上隆をも魅了し、今年1月横浜美術館で開催された村上隆のコレクション展には『Juliana』のエディションが出展された。

 

ブッシュウィックにある彼のスタジオで、黒のフーディーにデニムとワークブーツという普段からの制服姿のベンソンに、制作プロセス、ストレス、時間のかかる制作から得ることや今後について聞いた。

あるインタビューで今後の目標はもっと早く多くの作品を作ることだと言っていましたが、その後どうですか?

FRANK BENSON(以下F):まだまだだよ。そうしたいんだけど、なかなかうまくいかないんだ。

全てのプロセスを楽しんでいる気がします。

F:楽しんでいるという言葉が正しいかは分からない。全てのプロセスに関わっていて、中には好きなパートもあるよ。工作や構築するときの、パズルの謎解きみたいなパートとかかな。でも全工程でみると、とてもストレスフルです。

想像できます。費やす時間と素材、そして完成品への様々な期待。

F:そう、それがのしかかってくるんです。一年や二年かかるプロジェクトをつくっていると「なぜそんなに長くかかるの?」と聞かれる。最も時間を費やすのは鋳造と制作決断の時なんだ。『Juliana』の場合、髪をどう表現するか決めるまで数ヶ月かかった。もし今より時間をかけずに制作し、自分の中で解決しないまま完成させても、今のように納得のいくものになっていないと思っているよ。

『Jessie』はギリシャのイドラ島での展示が初公開でしたね?完璧なインスタレーションだと思いました。

F:この作品を制作している最中に、イドラで展覧会を企画していたポリーン・カルピダスが、ロンドンのギャラリーで僕の作品イメージを見て声をかけてくれたんだ。これを見せたときの、見ている人たちのリアクションが最高だった。みんな本物かどうか分からず、銅が素材なのにそう見えないし、ドレスはプラスチックか木でできていると思ったらしい。何人かはどうやって石でできたドレスを銅像に着せたの?と聞いてきた。それはこれが一つのものからできている作品だと思ったってことだよね。それがうれしかったよ。本当は様々なピースで構築され、それを飛行機などに使われる接着剤・エポキシ樹脂でくっつけられている。

『Juliana』はどうやって作られたのですか?

F:僕たちは共通の友達がいるくらいで、知り合いではなかったんだ。彼女が僕のスタジオにきていろいろなポーズをとり、これだと決めた。彼女はカメラの中で自分がどう映っているか理解している、素晴らしいモデルだった。彼女は素晴らしい表現力を持っている。でもヌードだとそれを表現しきれないので、色、髪型、爪の形やボディペイントで表現を試みたんだ。髪は何度も補正を繰り返しました。彼女の魅力的な背中を前面に出すために髪の毛を束ね、数週間経ったらそれらしくなっていった。3Dスキャンだけでは精巧には作れないので、手直しが必要なんです。三次元のモデルの色を表現するために、私はマットコーティングを施した玉虫色の塗料を用いました。ただどこからどのように塗り、この半透明の肌の質感を表現したのかを伝えるのは難しいです。

ジュリアナは『Juliana』をどう思ったの?

F:彼女は人間としてもモデルとしても最高だから、それを正確に表現したかった。クリエイティブなディレクションは全部自分がしたけれど、各過程ごとに、彼女にとってもハッピーなものか確認しながら作業を進めていった。彼女は本当に喜んでいたよ。彼女がはじめて美術館で作品をみたとき自分はそこにいなかったけど、彼女は喜んで涙を流していたと聞いた。あと、トランスジェンダーのコミュニティの反応にも驚いた。その中の一人がオープニングの日に、美術館で初めて人間と見間違う像を見たと言ってた。それを聞いて僕は驚くぐらい喜んだよ。

作品を見せる前、どんなことを予想していました?そしてその後に受けた人々の反応はどうあなたに影響を及ぼしました?

F:題材が素晴らしいし、これは重要な彫刻になると思っていたよ。だけど当初はケイトリン・ ジェンナーの話題が出る前で、作品自体もトランスジェンダーについてではなかったんだ。もともとジュリアナ自体に興味があって、制作過程でもっと作品を良いものにできるアイディアやコンセプトが出てきたんだ。仕上がりも素晴らしく、展覧会では沢山の注目を集めたよ。僕にとってトリエンナーレはアメリカで世間が選んだアーティストたちの初めての大きな展覧会だったから、多くの人たちに作品を見てもらえることができた。今までも同じような作品をつくっていたから知っている人は知っていたけれど、ニューミュージアムでのトリエンナーレは僕をもう一つ上のレベルへ持っていってくれた。

『Juliana』は『Jessie』の進化系ですね。どんな目的を持って制作に取り掛かったのですか?

F:常に以前の作品とは違うものを作ろうと考えています。『Human Statue』シリーズは初めて見る人が、それが人間か像なのか考えて欲しいものにしたかった。でもそれを意識して作品を作るには、結局ヌードが必要だったんだ。お願いしたモデルがスタジオにきた時、彼は僕がヌードモデルを必要としていると思ってすぐに服を脱いだんだ。以前はシリコンで人型の形成をしていたんだけど、本当に大変で難しくて途中モデルが気を失うこともあった。だから『Jessie』は3-Dスキャンを使った。でも見る人に本当に人が立っているように見せることに興味を失い、伝統的な彫刻であるグレコ・ローマン彫刻の進化系をつくりたくなった。それに『Juliana』は、また違った方法で制作したかった。彼女はもともと優雅で強い存在感のある人 物で、それは次の自分の作品に重要だと思った。彼女はスタイルを持っているから、ヌードでも服を着ていてもどちらでもいいと思っていた。でもギリシャの両性器具の彫刻、ミケランジェロのようなものと結びつくと思い、ヌードにきめたんだ。最初は全裸の男性、次は服を着た女性、そしてトランスジェンダー。その違いが力強いダイナミズムを生み、人々の目を奪うと思ったんです。

以前は俳優もしていたんですね、まだやりたいと思いますか?

F:はい。映像だけなら、まだパフォーマンス的な仕事はやりたいと思っています。いまちょっと面白いことをしていて、それは僕がやるパフォーマンスと3-Dモデルを組み合わせた映像作品です。自分の動きを知りたくてね、それをオンラインで買ったアニメの3-Dモデルにつけていくんだ。簡単な自画像みたいな。長い間ずっと 『Juliana』のことを考えていたからね…

自分の時間を取り戻したかったのですか?

F:それもあるけど、彼女がどう自分の肖像と向き合って仕事をしてたのか、そして自分ならどうかなと思って。

てことは、今度は『自分』ですね!

F:そうだね!

TEXT AND INTERVIEW BY CAROL LEE
PORTRAIT BY KAVA GORNA
TRANSLATED BY TOMOKO OKAMOTO

All Images Courtesy of the Artist and Andrew Kreps Gallery