DUNE libartane

ELLEN ALTFEST INTERVIEW

神は細部に宿る

アーティストのエレン・アルトフェストが描く絵は大きくない。彼女のキャンバスは大抵25cm以下だ。しかしその小さな絵からは、突き刺さるようなパワーを感じる。そして脳内に駆け巡る全ての考えを強制的に断ち切られ、親近感のある世界、もはやありきたりすぎて注意を払っていなかった世界を見せられる。いや、視せられる。ニューヨーク市生まれで47歳の彼女はコーネル大学とイエール大学で絵を学んだのち、新進気鋭の画家や彫刻家が通うスカウ ヒーガンアートスクールに在籍した。その後にはテキサス州マルファのチナティ財団を始めとして、数々の優秀な財団に貢献した。2007年よりロンドンのホワイト・キューブ・ギャラリーに属し、2012年にニューヨークのニュー・ミュージアムで個展を開き、2013年のヴェニス・ビエンナーレでは『The Encyclopedic Palace』というパワフルな絵画シリーズを見せた。彼女の静粛で几帳面な絵画たちには、どこか精神を安定させる効果がある。これは彼女が時には1つの絵を仕上げるのに数ヶ月という時間を費やし、時には木の絵を描くために何時間も凍えるような寒さに耐えて描いている事実が、ひしひしと伝わるからであろう。彼女の被写体は慎重に切り取られ、作品中へ配置される。主に男性の体の部位、瓢箪を始めとする草植物、樹皮や生地が多い彼女の作品は、有りものの写真から絵を起こすのではなく、自身のブルックリンのスタジオや実家の近くの森にて本物を目前にして描かれている。労を惜しまない精密さや気が遠くなるようなディテールを通して彼女は人間や木々、植物の繊維や表皮を小さなキャンバスに凝縮して描写する。時間と動きが止められたその静止画を見つめるものは、その細かなピクセルに引き込まれるほどに何を見ているのが分からなくなる。その細心まで描かれたキャンバス上の小宇宙はもはや、宇宙全体を飲み込みそうな勢いである。美術評論家のバリー・シュワブスキーは「彼女は根こそぎにされた木の一筆にしろ、モデルの陰毛一本にしろ、想像を絶するほど真剣に描いている。私はこんなにもまじまじとペニスを見つめたこともなかったし、何だか侵害されたような気がした」と語っている。アルフェストが筆を通して表現する深い森ほどの密度の描写は、普遍的な一般を神秘的な偉大性へと変換させる。そして“見過ごされているもの”は“見たことのないもの”へと変換されるのだ。

あなたの画風が現在のものに至るまでどのような進化を遂げたのでしょうか。どこかで大きなシフトがあったのですか?それとも徐々に変化していったのですか?

ELLEN ALTFEST(以下E):私の画風はかなりゆっくり進化していったと思います。あくまでも私の意見ですが、作品は個々の方式やルールがあってそれぞれあるべき姿があるんです。その作品と向き合い、完成するのに何が欠けているかを読み取ることがアーティストのやるべきことだと思います。私の場合、自分の作品はディテールの描写をすればするほど強くなることに気づいて、その方向に進めたような感じです。

樹皮を描くときと人間の皮膚を描くときとだと、アプローチの仕方は違いますか?

E:樹皮の方が自分の画法には合っていると思います。視点が迷わないような、何を描けばいいのか教えてくれるような、ランドマークがある方が好きです。私の基本的なプロセスは1つのランドマーク、または1つのランドマークの隣に足して描いての繰り返しです。広々とした表面を柔らかく変調させるのはなんだかしっくりこないので、ペイントは基本的に混ぜずに描いていますね。

あなたの作品の構図は考え抜かれていますね。名作を研究し、インスピレーションを得ています。面白いのは、あなたの絵のクロップの仕方には突然性や過酷さが感じられることです。植物に隠された頭部、切り株のように切断された腕…最初はあなたが好きなものにズームインしているのかと思っていたけど、今は自分が好きな一部分以外を“いらないもの”と見て捨てているように感じます。あなたにとっての理想の構図はどういったものでしょうか。心理的に意味を持つものですか?それとも単にビジュアル的な判断ですか?

E:確かに絵はどのようにクロップされるかでストーリー性が変わってくると思います。キャンバスのフレームは構図においてとても大切な部品です。絵に含まれているパーツは焦点を当てたいところではありますが、含まなかったパーツは存在を消したわけではなく、影になってもらってるんです。絵に含まれたものたちが、絵の端や切られたものと関係性を持っているのは好きです。私の絵は以前より柔らかくなっていますが、フレームが持つ緊張性で遊ぶのは今も好きです。

見る側としては、あなたの絵に登場する男の人たちはいつもあなたがそのとき親密な関係にあった男性だと思っていました。あなたが描く身体は、その気が遠くなるようなほどに繊細なタッチを通して、エロティシズムとはまた違った深みを感じさせます。描きながらその肉体に今までの親密さとはまた違った感情が芽生えることはありますか?また、その2つの感情はどう違いますか?

E:モデルと仲良くなったこともありますが、基本的にはプロフェッショナルな関係性を保つ方が好きです。絵を描くことはすごく時間がかかるので、モデルと一緒に過ごす時間は長いです。その関係性にリスクを持たせるようなことはしたくないですし。ただそういった絵を描きながら、自分の中で男性という生き物に対する気持ちの整理はしていましたね。つまり、時に絵のモデルとなったその男性は、当時私が経験していたものの象徴的な存在だったこともあります。あなたが感じとった親密さはそのことかもしれないですね。どんな題材でもそれなりの愛着は湧きます。しかし、モデルとアーティストの関係性とは別に、被写体となるモデルのパーツと絵自体の関係性があります。絵にとってはパーツとの関係性のほうがモデルとの関係性よりも大事なのです。

女性を描かないのはなぜですか?体毛が少ないからですか?

E:私は異性との親しみのなさや異質性に惹かれています。その上男性に魅力を感じているし、アーティスティックな意味でも興味があるので、男性の方が被写体としては自然だと感じています。

あなたは被写体をなるべく忠実に捉えるために、ストイックに現実的な空間で絵を描くことを実践してきています。ハイパーリアリストたちの中でも写真から絵を描く人は多いですが、あなたが写実的な再表現を拒否する理由は何でしょうか?

E:写真は完成されたいわばイメージ像です。物体の実像は描いている間に変化もすれば、想定外のことが起きたりします。私は見たハプニングに俊敏に反応し、絵に反映するのが好きなんです。アーティストが現場で描く簡易スケッチのほうが、完成画より生き生きしていて好きなことが多いくらいです。

作品を観た人に、あなたの一つ一つの絵に数ヶ月もの根気強さが眠っていることを気づいてもらいたいと思いますか?その“裏情報”は感じ取ってほしいものなのでしょうか?

E:絵を描くことにかかった時間は伝わることのないものだと思います。終わったときに終わるんです。そこに至るまでのプロセスや時間は終わった瞬間に“終わったもの”という1つの単体に凝縮されるんです。

あなたにとって今までの1番大切な被写体は何でしたか?

E:コネチカットにある実家の周辺の自然や景色じゃないですかね。同じ場所で絵を描いていても、昔と今では興味が湧く対象となるものが変わっているとは思いますが。

あなたの作品では対となる関係性が多々描写されています。現実と想像、削減と拡張、触感的なものとフラットなもの、通常と異常…これらは結果的にミクロの世界とマクロの宇宙の対比を象徴するように思います。この考えについてはどう思いますか?これは意図的ですか?

E:あなたの見解は興味深いです。確かに矛盾する2つの性質を融合させるのは好きです。しかし、完成画に内包される特徴や傾向は全て偶然です。知らないうちに芽生えているんです。例えば、今私は意識して自分の絵を抽象に近づけようとしていますが、その後の判断、構成をどうするかなどは、勘と成り行きです。プロセス自体が“思考”や“感情”、そして“誘導”ごときでは説明がつかないほど複雑なんです。自分の描いている絵に自分が目で見たものが浮き出てくることを信じるだけです。そして最終的な完成画はいつも想像とは異なります。

若いときにはどんなアーティストに惹かれていましたか?

E:いつも具象的な絵に目が行きました。エゴン・ シーレの鋭さ、ピエール・ボナールのセルフポートレイトに秘められた人間の儚さ、フィリップ・ガストンの孤高な世界観、風刺的なイタリアン・ルネサンス画などはすごく魅力的でしたね。目で見た絵のビジュアルを感情や心理に結びつける方法を探していたように思います。

あなたが創るこの小さな宇宙は人を迷子にさせることもあるかと思います。あなたにとって触覚はどういった意味を持つのでしょうか?締め切りがない作品制作のとき、細かいディテールに凝りがちな自分にストップをかけるタイミングはありますか?

E:絵が触感的になるのは副産物です。自分が見たものに似せるように何度もなんども絵に手を加えているとペイントが浮き出てくるというか。塗料の反応は多種多様だし、意図的ではない結果になることもありますが、自分の絵において求めているものとそうでないものの違いははっきり分かっています。ただディテールは自分でも大きな難点になります。見える全てを絵に含ませたいので、終わりはなかなか見えないです。

コーネル、イエール、そしてスカウヒーガンを経て、まるで画家の見本となるような道を歩んできました。しかし、もちろん個人的な面でもキャリアの面でも、良いことや悪いことを経験してきたと思います。キャリアの中盤に立つアーティストとして自分の過去を振り返ると、今までで1番苦しかった時期はいつでしたか?

E:キャリア的な名声と同時に個人的な問題が訪れる時期がありました。2年付き合っていた男性とニュー・ミュージアムの展覧会の2週間前に別れたり。ニュー・ミュージアムで自分の作品を展示するのは夢だったし、幸せ絶好調の はずだったのに、その日々のことがまるで蜃気楼に包まれているような曖昧な記憶となってしまっています。キャリア全体としてはとても満足しています。挑戦的なのは作品を創作することです。

今後のプロジェクト、アイディア、ゴールなど、教えて下さい。

E:今80パーセントが繊維で20パーセントが男性を被写体にした作品集を終わらせているところです。男性の絵は徐々に消されていきそうですが。これらの絵を2019年の初めに香港のホワイト・キューブにて展示します。最近は自然物の表面の柄や模様に惹かれていますね。これらのランダムなもののなかに規則的な構造を見つけて、凝視してあげるようにしています。これらは現実と空想の融合になるんです。

TEXT AND INTERVIEW BY CAROL LEE