DUNE libartane

ANTHONY VACCARELLO INTERVIEW

決してムッシュ イヴ・サンローランを模倣するな

「ブリュッセルという街からはとても静かな印象を受けると思いますが、それはあくまで表面的な解釈であるといえます。実際はとても充実していて、中身は煮えたぎっているかのようです。表面的には冷静だとしても、内側にはクリエイティブな情熱を秘めています」新生イヴ・サンローランのクリエイティブ・ディレクターに就任したアンソニー・ヴァカレロは、自身の生まれ故郷について物静かなトーンで語ってくれた。控えめで礼儀正しい所作からは、胸に秘めた静かなる情熱を服に注ぐ彼のアティチュードがうかがい知れるようだ。前任のエディ・スリマンが築いた遺産を受け継ぎ、大きな好奇心の眼差しを受けながらスタートを切ったのはちょうど1年前のこと。彼が「イヴ・サンローランが自身のキャリアの最終地点のように感じる」と語るように、デザイナーの交代劇を毎シーズン耳にするこのご時世に彼が安住の地を示したことは、この1年が大きな物語の序章に過ぎないことを物語っている。

イヴ・サンローランのクリエイティブ・ディレクターへの就任を依頼された際には、どんなお気持ちだったのでしょうか。

A:まず、イヴ・サンローランはファッション界でも類まれな素晴らしいメゾンです。そこから直接ご連絡をいただけるというのは、自分のキャリアが認められた末に辿り着く最終地点のように考えていました。それがこんなにも早く訪れるとは考えてもみなかったですし、実際にこんな日が来ると思いもしませんでした。自分のブ ランドでも十分に満足していたので、他にいただいたオファーを断ったこともあります。しかしながらイヴ・サンローランは最高峰という意味で、今まで取り組んできたことをやめてでも、という思いで承諾しました。

ピエール・ベルジュという存在は、イヴ・サンローランにとって特別だと思います。あなたにとってはどのような存在なのでしょうか。

A:任命されたあとに、すぐ彼に会うことを決めました。それが私にとっては最優先でした。彼のほうも、連絡を受けて嬉しかったと言ってくれました。お会いした時には、長い時間をかけて色々なことを話しました。中でも一番印象的だったアドバイスは「決してムッシュイヴ・サン ローランを模倣するな」というものです。実際に彼は2回にわたって私のコレクションを見に 来てくれたのですが、非常に喜んでくれたことを嬉しく思っています。通常であれば批評や周りの評価は気にしないタイプなのですが、彼のものはやはり響きましたね。

数多くの賞賛や批判の声から、ご自身に向けられる関心の高さを実感されているかと思います。2シーズン目の発表を終えた今、世界的なメゾンで働いた感想をお聞かせいただけますか。

A:先ほども申し上げた通り、評価に関しては耳を傾けないようにしています。実際に何も読みませんし、自由に囚われることなく、チームと共にしがらみなく働きたいという一心です。一年経った今でも、まだまだワクワクしています。1年という歳月は極めて短いですし、振り返るのには少し早いかもしれません。ですがひとつ言えるのは、私が好きなようにさせてくれるみんなに対して感謝しているということです。

あなたが採用した広告が物議を醸すということがありました。掲載を禁止された地域もあったと伺いましたが、どのような世界観やメッセージ伝えるべく作られたものだったのでしょうか。

A:そもそも私がやったことは最近はじまったことではなく、ムッシュイヴ・サンローラン氏ご自身が“自由”を表現し続けていたと思います。『OPIUM』の広告で裸になったのは代表的な例ですね。私はあえてスキャンダルを引き起こすつもりでやっているわけではありません。男性、もしくは女性の体を一番綺麗に表現したいだけなんです。それを批判する人というのは、どこか個人的に歪んだビジョンを持っている人なのではないかと思えてなりません。ですが、今回ショッキングなことをやったからといって、毎回毎回そういったスキャンダラスなものをやりたいわけではありません。あくまで“いつも新しいことに取り組む”ということを志しています。

アーティストプロジェクトの第一回目に、荒木経惟さんを選んだ理由をお聞きしたいです。

A:やはり今回日本に来るということで、現地のアーティストとコラボレーションしたいということではじまりました。日本写真界において荒木氏は重要な存在であると考えており、私はときおり“勘”で動くことがあるのですが、たまたまその名前を挙げたら幸運にも実現した、という感じです。今回は形にすることが出来てとても嬉しく思います。彼の作品は“強い女性”というイヴ・サンローランのイメージとも非常に合っていると思います。女性をリスペクトし、女性を愛するブランドでありながら、その特殊な見方やビジョンによって理解を得られないときもありますが。荒木氏の素晴らしいところは、妥協しないところではないかと感じます。

実際に働いてみて、いかがでしたか。

A:すごく感動しました。チーム全体でその感動を共有できたと思います。特にモデルを務めたアニャにとっては夢のような経験だったと思います。ご高齢にも関わらず謙虚で、情熱を持ってお仕事をされているように感じました。東京は本当に良いですね。至るところに発見や驚きがあって、どこでも楽しむことが出来る。必ず戻ってこようと思います。

TEXT AND INTERVIEW BY KAZUMI ASAMURA HAYASHI
PHOTOGRAPHED BY NOBUYOSHI ARAKI