ALEX GARDNER INTERVIEW
人間はみんな変わっている
ガードナーのアート界でのブレイクの仕方は従来の道筋から外れている。名前のあるMFAのプログラムを通して人脈を作ったり、週末にキュレーターにゴマをすったりしたわけでもないのに、彼の成功は実にスムーズで速いものだった。南カリフォルニアの州立アートスクールに通い、ペイントのコースが嫌だったという理由でイラストを学び、独自のやり方でペイントと向き合った。20代半ばだったが、積み重ねてきたイラスト技術は新境地の開拓に大きく役立ち、クールな若手のアートシーンにてメキメキ頭角を現した。彼の独特な人物像とそれに伴う空気感は反響を呼び、現在注目を浴びている。日本人とアフリカ系アメリカ人のハーフであるガードナーは人物像の顔立ちや肌の色を抜き、抽象化させている。彼らはみな彼と年が近い設定で、肌は液体のような黒に塗りつぶされている。性別こそあるものの、全員ユニセックスの白い短パンとシャツを着せられ、究極の自己完結で、お互いの自分のことしか考えていない世界の住人である。彼のインスタグラム(@artposter)である〝自称ダークな奴〞は割と面白い。『Peptalk on PCH』というタイトルや、来月NYCのホール・ギャラリーで展示するシリーズの1つには、ウンコしながら思いついたという〝拭かなきゃだからまた今度〞というキャプションなんかもある。オープニングの翌日の朝、彼がAirbnbで宿泊しているウィリアムズバーグのアパートの近くで会った。一晩中飲んでどんちゃん騒ぎした明け方の20代のアーティストからしてみれば、朝早すぎたことは間違いない。しかし、その日の全米オープンを見に行くという彼はその時間しか空いていなかったのだ。疲労を振り切ろうとする彼と小さいネズミが入り口で出迎えてくれ、エレベーターから爆音で音楽が流れる小さなカフェに座って話を聞いた。
最新の展示『RomCom 』と過去のとでは、具体的に何が違いますか?
ALEX GARDNER(以下、A):画法などは特に変わってませんが、カラーパレットは変わりました。以前よりポップな色を抑えて、少し色素の薄い色や濁っている色を…口に出すとすごくつまらない話ですよね。
大丈夫です。読者は面白く感じると思います。あなたの視点からだとつまらなく感じるのはわかりますが。テーマ的に違いはありますか?遊び心を主体として表現しているのか…でもあなたの絵は人間関係を描写していますよね?
A:そうですね。でも恋愛関係だけではないですが。
展覧会のタイトルは全ての作品が完成した後につけていますか?
A:はい。絵もそうです。タイトルは完成後しばらく経ってからつけます。
ということは、カップルのシリーズ展をやると思って描き始めたわけではないのですね。
A:はい。そしてカップルが主題というわけでもありません。
それにしても面白いタイトルですね。ラブコメは好きですか?
A:映画ジャンルのことですよね?大好きです。
お気に入りを教えてください。
A:えー、それは恥ずかしいです。ベタなので言いたくないです。
そんなこと言わずに教えてくださいよ。全部ベタですから。
A:女々しいのでやめておきます。ただ、ラブコメは好きです。
1つだけ。
A:1つだけ?うーん…最近『 10日間で男を上手にフル方法』を久しぶりに観ました。10代の初デートのとき、あれを観に行ったんです。
デートはうまくいったんですか?
A:その女の子とですか?えっまあ、子供だったし、なんて言えばいいか…あっでも、僕その日ちょっと体調 が悪かったのでうまくいかなかったですね、そういえば。
カルフォルニア州のトーランス育ちですよね?
A:学校はトーランスにありました。
どこかのインタビューで14歳までは辛くてトラウマばかりの人生だったと言っているのを読んだことあります。
A:幼少期というもの自体、トラウマで溢れているものだと思います。身の回りのものごと、全てが大事で ついていけないんですよね。あと私の場合、9歳になる少し前に親が離婚したというのもあります。
それはトラウマになりますね。
A:辛かったです。
そのあとは母親と暮らしたんですか?
A:時々父にも会いましたが、基本は母と暮らしていました。
もともとはグラフィックデザインを勉強していたんですよね?
A:いや、イラストレーションです。ただ、学校ではフィルム製作を専攻して、大学の初めの2年くらいはCMを手がけるアートディレクターの下で働きました。プロップアシストやセットデコレーションなどをしていましたね。酷かったです。だからあの業界で働く自分が想像できませんでした。映画製作の方がカッコよかったかもしれないですが。なのでとりあえず、大学を卒業することに専念しました。
どこの大学ですか?
A:州立ロングビーチ大学です。その大学のペイントコースの生徒や教授が嫌いだったので、イラストコースをとりました。それとイラストの方が描くことの技術的な部分を重要視しているような気がしたので。
幼少期から絵は描いていましたか?
A:学校でみんなを笑わせるようなことばかり描いていました。
漫画ってことですか?
A:そうですね…ちょっとした瞬間にキャラクターやストーリー性をもたせるような絵を描いていました。
以前に自分の絵には「人生はいいものだ」ということが主題にあると言っていましたね。
A:さっきから引用が多いけど、どこから持ってきているんですか?Juxtapozですか?
はい。
A:あー。あのインタビューは最悪でしたよ。わざと感じ悪く聞こえるようにしたわけではないんですが。僕の友人はウケ狙いで僕があんな風にしたのは分かったみたいですが、インタビューを受けたくなかったのがバレてしまいましたね。友達に「二度とインタビュー受けない方がいいよ」って言われて「やべー」って思いました。
でも自分の絵のテーマは「人生はいいものだ」ということは、Juxtapoz以外のインタビューでも言っています。まあでも、答えたくないときに使うひとことなのかもしれませんね。
A:そうですね。僕の作品は自分のことでしかないので。最終的にはみんな自分の作品が好きかどうかじゃないですか。そこにコンセプトやらを後付けする必要性を感じないんですよね。
分かる気がします。絵描きでもミュージシャンでも、アーティストなら本人が納得いくものを作っているだけだと思います。それが公の場に露出されると人は分析したがるだけですよね。
A:人が見るということは、それぞれみな自分のレンズを通して見るということですからね。
イラストからペイントに移行を決めた決定的な瞬間はありましたか?
A:もともとペイントを使って絵を描きたい願望は強かったです。ただ、学校のペイントコースが嫌いだったからイラストから入ったっていうだけで。やりやすいものを習得して、学校を卒業してからペイントに手 をだしました。
成功が早かったことにはびっくりしましたか?
A:いや、2年前までバイトをしていたので、こんなに早くブレイクするとは思っていませんでした。
絵を描き始めた初めの頃と今とでは、画法に変化はありましたか?
A:大学時代は水彩画をたくさん描いていたのですが、インクに手を出したことで大きく変わりましたね。モノクロが多くなっていきました。
インクを使う前のスケッチに力を入れる人ですか?
A:僕のスケッチブックを見ると、6歳の子供が口に鉛筆を加えて落書きしたようにしかみえないですよ。構図を考えて形を見るためにパパッと描くだけです。
また持ち出してしまって申し訳ないのですが、「人生はいいものだ」という考えについて読んだとき、ちょっとした覚醒的なメッセージだと思いました。以前までは「人生って最低」って思っていたけど、何かが起きて見方が変わったのではないかと。
A:根本的に悲観主義なので、確かに自分のことではあります。歳を重ねるにつれてキャリアも前に進み、自分を見つめ直しているのかもしれないです。
写真は好きですか?例えば友達と遊んでいるときに「あ、今の瞬間はいい構図だな」とか「このテンションを絵にしたらいいな」と思ったりすることはありますか?
A:いや、ないです。構図というよりは会話や色、ライティングをキャッチすることはあります。
日記はつけていいますか?
A:いいえ。
今の質問で腹を立てたようですが。
A:毎日やらなくてはいけないことっていうこと自体がちょっと・・・。慣れたら意外と楽なのかもしれな いですが。
あなたにとっては絵が日記なのかもしれないですね。
A:そうかもしれないです。そういえば、つい最近誰かにも言われました、それ。そうっぽいですね。
あなたの作品を初めて見たとき、ドレープのせいか古代ギリシャを連想させられました。被写体を全て同じ色に描いたり同じ服を着せたりすることで一見民主化させたかのように見えましたが、不思議なことに結果的に逆効果だったと思います。一見同じだからこそそれぞれの被写体の違いを見つけたくて引き込まれていくようでした。カモフラージュするための判断が逆にスポットライトを当てることになったと思います。みんなに同じ服を着せ、同じ人にするということの始まりは何だったのですか?
A:3年かけてじっくり編み出したものです。現段階でもまだ観る人がどう受け取るか、自分の絵には何を語ってほしいのか分かりきってないです。ただ、人物が匿名者であることは意識しています。特徴があると潜在意識や固定概念で人物像に特定のイメージを持たれやすいので。焦点が〝人〞ではなく、もっと普遍的な人生の1シーンであってほしいとは思っています。ただ、そう意識すれば意識するほど効果がなかったりするんですけどね。
とはいえ、あなたはみんなが解決に挑むミステリーを創り上げたように思います。そしてそれを楽しんでいません?
A:それは確かに否めないです。人に興味を持っていてほしいので。ただ、いつも「騙そうとしているわけ ではないし、馬鹿にしてるわけでもないからね」とは言っています。